189年12月 悠真戦略フェイズ
悠真「なぜなら俺はもう・・・ずいぶんと前からすでに・・・」
悠真「勝っていたのだから」
そういうと悠真は慣れた手つきで自軍の人事を変更していく。
悠真「軍事担当は王凌で良いだろう。他の武将は勝利した際の経験値で成長させるために全員出陣だ。それでは王凌で募兵を行うぜ」
募兵?募兵とはなんだ。今までは丁寧に三国志5の説明をしてくれたのに、今の悠真はまるで僕なんていないかのように振る舞っている。
悠真「王凌では3400人の兵を集めるのが精一杯か。まあ兵を俺と楊醜に編成するのが目的だったし、多少はね?
陽介「お、おい悠真。何をやっているんだ?もうゲームは始まっているんだろう?『すでに勝っている』とか変なことを言っていないで何が起こっているのか僕にも説明してくれよ」
僕は悠真の肩をつかんで力をこめた。さっきから一人で独り言ばかり呟いていやがって。こいつは一体なんなんだよ。
悠真「ん?まだ自分の立場に気づかないのか?今までの武将作成で気づかなかったのか?ならわかるようにしてやろう、ほらよっ!」
そういって悠真は配下の兵士の数を編成しなおしたのだけど・・・ん!?あれ?なんだこりゃ!?
陽介「兵が数が2万?そんで他の武将は1とか400とか変な編成をしている・・・って、もしかして武将って最大2万人しか兵を率いられないの!?」
ということはだぞ。単純に考えて配下が3人の僕は最大8万人しか動員できないことになる。対して悠真は自身を含めて9人いるので18万人で攻め入ることができるのか!!ううう・・・二国志寡兵有利論とは何だったのだろうか。
悠真「朝起きてベランダであくびをしていたら口の中にカエルが飛び込んできたみたいな顔をしているな。俺がすでに勝っていたと断言した理由、それは初期保有兵力なのさ」
陽介「え?ひとりに2万の兵しか配属できないから僕を18万の兵力で蹂躙するつもりだったのではなくて!?」
『何言っているんだよ、違う違う』と悠真はジャスチャーを交えながら比定する。では何をもって勝利が確定していたというんだよ・・・あ、あれ?楊醜の武力がおかしくない!?
陽介「悠真・・・楊醜の武力が97に増えているんだけど、三国志5は能力が上昇したりするの?」
悠真「ああ、これはゲーム開始時に運良くアイテムを所持することができたんだ。アイテムの数はそんなに多くないから狙ってできることじゃないんだぜ?」
ぶっ!!!今まさに大軍が襲いかかろうというのに不幸に不幸が重なってしまった。ちなみに僕の配下にアイテムを持っている者はおらず、あとで気づくことになるのだが悠真軍にはもう一人アイテムを所持する者がいるのだ・・・。
陽介「アイテムの取得は運が良かっただけだから悠真としては勝算として期待していなかっただろう。ならば本当に初期保有兵力とやらで勝ちを確定しにいったのか?あっ!?そういえば楊醜が最初に5000もの兵を率いていたのを思い出した!」
さっき王凌が募兵(おそらく兵を集めるコマンドだろう)をした時、悠真は『3430人が精一杯』と言っていただろう?一人の武将が2000もの金をかけて集めた人数よりも多くの兵がゲーム開始時に配属されていたのだ。悠真は何事もなく四万の兵を動員しようとしているけど、普通にゲームをしながら集めようとしたら莫大な資金と何ヶ月もの時間が必要なのではないか!?
悠真「そろそろ初期兵力の重要さに気づいたか?なぜ俺が言霊を使って武将を増やし続けていたのか理解できたか?まあ悔しがることはないさ。準備期間中、お前なりに良く考えていたのは知っている。だけど俺には一日の長があったからなあ」
そして、そろそろ夕飯らしいから投了してしまえよと囁く悠真。だけど漢中は諸葛亮が北伐の拠点にした土地なんだ。少しくらい兵が多いからって史実の魏と蜀の国力ほどは引き離されてはいないだろう!?
悠真「勝負を諦めた目には見えないな。ならば教えてやろう。三国志5にて兵力差がどれほど重要なのかをなあ!皆の者!戦の準備だ!」
そう言って悠真は出陣可能な武将を全員選択した。戦力になるかどうかもわからない兵力1の武将もだ。
悠真「合戦に参加すれば経験値を得られるんだぜ。この戦いのあとに誰かが特殊能力を覚えたりしてな(笑)。つまり、この戦いは経験値稼ぎでもあるってことさ!確か孫子に『勝ってますます強くなる』って言葉があったなあ?」
クッ!これから真剣勝負をするのに、レベル上げのスライム退治みたいに言いやがって!悠真の4万に対して僕の初期兵数は何人いるんだろう。たしか君主には1万人ほど配属されていたのを覚えている。他の配下は2000~4000人だったろう。
悠真「我が参謀、黄月英よ。出陣の準備が終わったぜ?おいおい、互角ってことはないだろうよ?なんたって・・・」
悠真「兵数は約2倍の差があり、楊醜の率いる弓部隊の遠矢で削り倒すつもりだからなあ!お前の主力武将である孫観は2000~3000人の兵数ってところだろう。この12月に陽介のターンが先に始まったとしても勝てなかったってのはわかるな?なんたって兵は1ターンに3000人しか増えないんだからよおお!」
ターンの後先も関係なく勝負はすでに決していたと言いたいのか。無双を持っている孫観なら2倍の兵にも勝てたはずだ!!・・・いや、楊醜に2万を配属して、残りの2万を孫観の動きをおさえるために1万ずつわける。そうなれば楊醜の弓で少しづつ孫観の兵を減らされて負けてしまうだろう。なんてこった!
陽介「ぼ、僕の兵はどれだけいるんだ?」
君主である僕自身の兵が13000人ほど。そして頼みの孫観は3000人だ。いくら特殊能力を覚えさせて強化した孫観でも4万の兵に襲いかかられたら粉砕されてしまう。しかも君主である僕は倒されたら負けなので、おいそれと前線にでることはできないのだ。
悠真「さてさて、敵を知り己を知ったところで合戦を始めようか。ところで、漢中で挙兵せず空白地の多い揚州で挙兵していれば逃げ回りながら兵を増やせたかもね、はっははは!」
陽介「くっそ!うわあああああああああ」
眼前に悠真の大軍がせまってくる。その軍勢に脅えていたところ漢中を捨てるかどうかと選択肢がでた。
陽介「漢中を放棄?戦争をしないで他の都市で体勢を整えることができるのか?」
この絶望的な兵力差を覆すには時間を稼ぎながら僕も兵を集めて山岳地帯の涼州までいくか外交で他の勢力から兵を借りるしかないであろう。そうだ!とりあえず漢中は悠真にくれてやり僕は董卓と同盟をする。そして董卓の兵を借りて漢中を奪還するんだ。悠真は武将の数が多いけど戦力として使用しているのは悠真自身と楊醜だけだから十二分に勝機はある。
陽介「逃げて兵を温存するのがベストかもしれない。だけど撤退は『二国志』の戦争ルールに慣れてからでも遅くないだろう。負けるのを知りつつ勝負するなんて馬鹿馬鹿しいけど、これも敵と己を知るだめだ!ちっくしょう!やってやるよおお」
・
・
・
南鄭の戦い
残り30日 武将配置のターン
画面が漢中の戦場マップに切り替わった。
陽介「これが漢中の戦場マップか。左下に見える関は陽平関であろう。確かに野っ原ばかりの土地とは違い守りやすそうに見えるけど・・・」
なんだか想像していたマップと違う。僕が想像していた漢中は周囲を要塞に囲まれた防御特化の都市であった(許昌はそんな感じ)。
陽介「下にある2城は益州からの兵を撃退するのに向いているようだ。下の街道から来れば陽平関で迎え撃ち、上の街道から来れば川へ誘動して撃退すれば良い」
つまり益州の将にとって攻め取るのが難しい都市だということだな。蜀漢が漢中を失ったら北への道を封鎖されてしまうというのが再現されている。諸葛亮がここに居座っていた理由がわかる気がするよ。この戦いが益州からの防衛戦ならば陽平関近くの城に陣を構えれば良い。だけど今回は上庸からの進攻だ。下の2城よりも川を挟んだ上の城塞に軍を配置しよう。そして両陣営が出揃った。
やはり上庸方面軍は右下から来たか。僕にも2万の軍勢がいれば敵が渡河しないように川岸に兵を進めるのに!と悔しがっていると画面にサイコロが表示されているのに気づいた。
残り日数30 戦術フェイズ 陽介のターン
陽介「戦争にも天命システムが適用されることは予想していたけど、ええと?言霊を使うとどうなるの?」
悠真は若干機嫌が悪いのか鋭い目を僕に向けて『とりあえず有利になるような戦闘向けの文章を唱えろよ』とぶっきらぼうに言った。ええと?なんか機嫌が悪い?言霊が0だから?負けると知っていながら無意味に言霊を使う僕の方が悲惨なのに(泣)。
陽介「ゲーム画面を見ながら陣容を気にしつつ言霊の数を考慮して呉子を読むのがめちゃくちゃ難しい・・・呉子曰く!敵の軍は勢いにのって攻めてくる。まず守りを固めるのだ。敵は夕方になれば引き上げるだろう。『必慮其強、善守勿応。彼将暮去』!」
悠真「!?」
僕が言霊を唱えると楊醜の軍が淡い光で包まれた。そしてゲーム画面の中を灰色の吹き出しがふわふわと動いている。なんだこれはと眺めていたら悠真がマウスでドラッグしながら動かしているのを見てしまった。
陽介「なんだこれは?戦術?退却?そして強制力とは一体・・・?」
悠真「戦術とは戦争中に言霊を使用した際に発揮される効果のことだ。敵を退却させる意味の文章を言霊にすると『退却』という戦術が発動となる。効果は吹き出しに書かれている通り。お前は言霊を3つ使用したから、2ターン後に楊醜を退却させることができる。そして強制力(陽介の使用言霊数)は戦術の効果を打ち消すのに必要な言霊数だ。俺が強制力3の戦術『退却』を無効にしたい場合、『謀略を防ぐ』、『計略を見破る』等の言霊を3つ唱えなければならない」
陽介「ふーん。えっと、じゃあもしかして残り日数28までに悠真が言霊を3つ手に入れなければ楊醜はいなくなっちゃうの?」
悠真「その通りだよ!!このターンの俺に2つでも言霊があればなんでもないことだったんだ!それか楊醜の2万を黄月英と1万ずつ分けておくとかな!くっそー!次に言霊を2つか3つ出さなければ!」
も、もしかして、さっきの言霊でもの凄く有利に傾いたのかもしれない。結構いいかげんに選んだ言霊だったのだけどなあ。悠真から『さっさと兵を動かせ』と怒られたので鶴翼の呉敦で敵をとめ、孫観と曹節で援護射撃という布陣をしてみた。
残り日数30 戦術フェイズ 悠真のターン
悠真「このターン俺は言霊を使えない。楊醜と俺の軍を陽介の元へ進めるぞ」
三国志5は城を全て占領されるか君主が倒されると戦争に負けてしまう。ゆえに4つの城のうち、3つの城は放置して君主を含めた全員で1つの城を守っているんだけど・・・4万の兵には粉砕されてしまうから空しい(泣)。そりゃそうと、楊醜の錐行の陣は凄い移動力だ。次のターンには接近戦を挑まれてしまう。
残り日数29 戦術フェイズ 陽介のターン
陽介「楊醜の軍と接触するぞ。錐行の陣は移動用の陣形だけど武力97で兵力2万の楊醜に攻撃されたら呉敦が蹴散らされてしまうかもしれない」
それにしてもだ。悠真の天命は1で言霊は0だ。もしかしたら本当に楊醜の2万が退却するかもしれない!こ、これは、運がいいぞ!なんだかサイコロを振るのがくせになってしまいそうだ!
陽介「このターンで楊醜が君主のいる城までたどり着くことはないだろう。よし!いったん敵の攻撃範囲から離れるぞ!みんな散れ!」
次のターンに楊醜が深入りすれば城を拠点に守りを固めなおすか囲んでしまえば良い。楊醜に次のターンがあればの話だが。
悠真「それで・・・お前は言霊を一つもっているわけだが、どうするんだ」
悠真は機嫌が悪いようだ。そりゃあそうだろうな。普通にプレイをしていれば圧勝の陣容だったんだ。『二国志』で2連続言霊が0になってしまったら負けも同然なのかも知れない。
陽介「ええと、引用できるのは一文か。本来ならば弓を一撃くらわせたあと退却しようとしていたから何をするのか全く考えていなかった。呉子曰く!優れた将はいつも死を覚悟しているものだ!このような将には智者の謀略も及ばない!『使智者不及謀』!」
またも画面に吹き出しが現れた。敵の妨害言霊を無効にする?えーとつまり?
悠真「『戦術:必死』は呉子に頻出する『死の覚悟をすれば・・・』という文章を俺なりに三国志5へ応用したものだ。名前の由来は『死を必す』なのである。効果は敵が対象の武将へ唱えた言霊を無効にする。それは強制力を1つ増やすことも意味する」
ん?1回聞いただけでは良くわからないけど、敵の言霊を無効にしてくれるとなれば主力の孫観へ付与しておこう。言霊の効果により孫観が光に包まれる。
残り日数29 戦術フェイズ 悠真のターン
悠真「楊醜を深入りさせるのは止めておこう。次のターンに『退却』を解除させられることを祈って、このターンは城の占領だ。城をとれば武将の経験値が増えるからな」
そして悠真は楊醜を漢中の支城へ移動させた。経験値をためると特殊能力を覚えたりするのだろう。他にも効果があったりするのかな?
悠真「俺はまた言霊が0なので、このターンはこれで終わりだ。くそっ!」
残り日数28 戦術フェイズ 陽介のターン
陽介「!?」
悠真「!!???」
僕たちはサイコロの結果に戦慄する!なんだか八百長みたいな結果だけどやっている自分は本当に楽しかった。
陽介「これで楊醜が退却することが確定した。次のターンに悠真が僕たちの元へ辿りつくことはない。いったん陣容を整えよう」
楊醜がいなくなっても2万を率いる悠真は強敵だ。上手く包囲しないと各個撃破されてしまう。川に橋がかかっているので地形効果を利用するのは無理そうだしなあ。
陽介「言霊は何を使おうか。もうとっくに退却しているつもりだったから何も考えてなかったんだよ・・・まさかここまで悠真軍に迫れるとはな。呉子曰く!兵力に劣る場合は意表をついて戦え!さすれば大軍を打ち破るのも用意であろう!『彼衆我寡、以方従之。従之無息、雖衆可服』!」
陽介「この伏兵という戦術はわかりやすいな。ちょっと強すぎる気もするけど」
悠真「ところがそうでもないのだ。兵法書には『伏兵を察知せよ』といった一文が多く記述されている。そういった言霊ならば強制力の数に関係なく言霊1つだけで解除されるからな。姿を見破られたが最後、袋叩きというわけさ」
なるほどそれは恐ろしいな。とりあえず『必死』で言霊への耐性がついている孫観につけよう。
悠真「まだ勝負は決まっていない!孫子にだって部隊を無力化する言霊が沢山あるんだ!俺にも言霊が4つあれば!」
そのとおりだ。ターン数もまだまだ残っている。部隊数も少なく兵力も拮抗している。そう!次のサイコロで勝負は決まるのだ!
残り日数28 戦術フェイズ 悠真のターン
悠真「上図から陽介の行動範囲を見極めてぎりぎりまで近付くぞ。明日の言霊で勝負だ!」
悠真は残り日数27のサイコロに賭けて決戦の構えだ。おたがい1歩でも近付けば衝突する距離まで近付いたぞ。
(プレイ主のミスで楊醜を退却させるのを忘れています。本来ならここで楊醜は退却しています)
残り日数27 戦術フェイズ 陽介のターン
言霊はお互いに一つだ。孫観の伏兵を解かれる心配はない。伏兵として川に進ませよう。
陽介「孫観!速攻だ!川に潜んで悠真の動きを止めろ!」
悠真「孫観の伏兵を解かないことには攻撃される一方だ。孫子曰く!敵の備えが万全であれば計略をもって乱せ!『安能動之』!」
孫観にかかっていた『必死』が解かれる。仕方がないとはいえ言霊の打ち合いで後手に回るようなことをしてはいけない。
陽介「かかったな!悠真よ!僕の元へ来い!呉子曰く!将が兵士を制止できない敵は即座に叩くべし!『上不能止』!」
悠真「!!??」
陽介「僕は『二国志』の記念すべき初プレイ&初参加者なんだ。一緒に戦術の内容を発案するくらいはしてもいいだろう?常識外れな効果でもないしね」
悠真の部隊は、この1ターン僕の部隊の元へ向かってくる。だけど最短距離の途上に孫観がいるので隣接することはできない。挑発にかかり孫観の手前で停止した悠真の兵に弓の一斉射撃をくらわせるのだ。これで兵力差は逆転するはずだ!
悠真「とりあえず楊醜は退却せよ。今回は言霊を使った始めての戦だったのでお互いが慣れていなかった」
悠真「そして黄月英は城を占領だ。少しでも経験値を稼いでくれよ」
悠真「そして俺は最短距離、つまり橋の上まで移動させられてしまうのか・・・」
悠真「こちらの兵は2万。挑発を無効にする言霊も無い。明日の残り日数26で弓の一斉射撃をくらえば兵差は大きく開いてしまう。潮時だな」
挑発の効果で悠真の軍が僕達の眼前に引き寄せられる。
悠真「退却だ。二国志の合戦は三国志5のそれと大きく違うようだ。それに孫子の真骨頂は権謀術数だからな。孫子を用いながら力攻めで押しつぶそうとした不遜な行為にバチが当ったのだろう」
こうして僕たちが初めて交わした合戦、『南鄭の戦い』は終わった。あとで悠真に聞いたところ、南鄭という地名は適当に命名したものらしい。僕たちは誰もしたことのない試みを行った。悠真の敗因は初の試みゆえの無知だろうか。言霊0が続いて運が悪かったせいだろうか。いや違う、きっと悠真も負けた理由に気がついているはずだ。きっと僕たちは間違え戸惑い笑い者にならなければ成長できない人間なんだ。英雄達よ。九天にて光り輝く無数の命が見えるか。幾百年の歳月を経て僕達は同じものを見ている。
189年12月 戦略フェイズ 悠真のターン 再開