三国志5プレイログ「二国志」~第三章:将離士卒、可撃

悠真「よし!それじゃあ夜に備えてジュースとお菓子を買ってくるわ。ああ、カーチャンに陽介が泊まるって言ったらハンバーグ作ってくれるってよ」

陽介「ハンバーグ!?よし夕飯の前にお菓子を食べるのはやめておこう!」

悠真「コンビニへ行ってくるから、お前は俺が書いた孫子の目次を真似して呉子をテキストファイルに写しておいてくれ」


そういって悠真は漢字がびっしりと書き込まれたテキストデータを開いた。あらためて見ると変換しにくい字ばかりだし文字数も多いように思える。悠真は昔からマメなやつなのだ。

悠真「お前は三国志5をやったことがないんだから説明書と攻略本を読んでおけよ。そいつを読んでおかないと俺の圧勝で終わってしまうからな。それと出かける前に予言しておいてやるよ。読んでも俺が勝つ」

と、自信に満ちあふれた言葉を残して悠真は1階への階段を駆け下りていった。


陽介「じ、じゃあ呉子の目次を作るとするか。悠真のいうとおり説明書や攻略本を読んでも未プレイの僕は負けてしまうんだろうな」

戦いが始まる前から勝敗は決している。孫子曰く『勝兵はまず勝ちてしかる後に戦いを求める。敗兵はまず戦いてしかる後に勝利を求める』か。はぁ、悠真のカーチャンが作ったハンバーグを食べたい。夕飯の献立を聞いたら急に腹が減ってきた。空腹感と戦いながらポチポチと呉子の目次をタイピングしていく。

陽介「孫子に倣うならば、敗者は闇雲に空腹感と戦おうとしてしまう。勝者はお菓子を食べて空腹感に勝ったのちに食事を求めるということになるな。ぽちぽちぽちぽち、カチャッ!よし目次ができた!」

思ったよりも早く書き終わったよ。これなら悠真が帰ってくる前に説明書と攻略本を一通り読み終えることができるだろうな。


こうして孫子と呉子を見比べてみると良くわかるのだけど呉子は目次を作って書き出すと量が少ない。つまり文字数の少ない兵法書なのだ。孫子でさえ少ない文字の書だと言われているのに、さらに少ないときている。呉子はもともと四十八篇あった(らしい)のだけど六篇に減ってしまった。焼かれたのか無くしたのか埋めたのか分からないけど多くは失われたそうである。

陽介「多くの人間に注釈をつけられた後に曹操の編纂と駄目押しの追加注釈を付加された孫子は幸せもの(幸せ書?)なんだ」

もし呉子の全てが失われず現代まで残っていたらどうなっていただろう。失われた篇には何が書かれていたのだろう。本来なら今そこにあるはずであった呉子に想いをはせる。現代に生きる僕は兵法書である呉子をそのようにして活用するのだ・・・あれ?なにかしなきゃいけないことがあったような?

陽介「まずい、呉子の目次を眺めて妄想している場合ではなかった。三国志5の説明書と攻略本を読まなければ夕飯の前に負けてしまうぞ」

僕は初プレイなんだし1回や2回は負けても良いからゲームを楽しんでしまおうという考え方もある。しかし『敗北したけど楽しかった』という勝負をするのは信念に反するのだ。世界史を学ぶと思慮が浅く投機的な戦いをしたがため負ける必要の無い戦に負けて滅びるはずもなかった国が滅んだ事例を数多くみかける。あの日の僕は身悶えるような苦しさに嘖まれて自分の将来に向けた進路を決意したはずじゃないか。負けてもリセットできるゲームだからと甘えてはいけない。呉子曰く『今使一死賊伏於曠野』、つまり広野に追われた一人の賊のように死にものぐるいにならなければいけないんだ。とりあえず説明書を読んでしまおう。



なるほど。三国志5の基本は富国強兵、その後に戦争か。そして陣形というシステムが重用であるらしい。また地形という概念もあるので戦争の際には陣の配置と行軍に気を配らなければいけないだろうな。

陽介「おっと!三国志5の説明書を読んでいたら三国志の武将の列伝が記載されていたぞ。説明書にも遊び心を忍ばせるなんて芸が細かいなあ」


三国志の武将は魅力的だ。多くのゲームや物語の題材となっているのも納得してしまう。だけど浮かれて楽しんではいけないのだ。僕はそんな生き方をしてはいけない!そんな戦いをしてはいけない!

陽介「今度は攻略本の方へ目を通してみよう」


僕は悠真から借りた攻略本を取り出した。陣形についてかなり詳細なデータが記載されている。あらためて気づいたのだが八陣があるのか。


陽介「それに、この特殊能力というのは面白いな」


この能力の組み合わせによって武将に個性がでそうだ。それに・・・個人的に強い技能なのではないかと気になっているものがいくつかある。だけど悠真はこれら全部の効果を深く理解しているんだよなあ。

陽介「一番起こりそうで嫌な負け方は、悠真が孫子にならいゲームが始まる前に勝ちを決めてくるパターンだ。僕は未プレイなのだから隙をつくなど容易なことだろう。悠真は絶対に何かを仕掛けてきて僕は劣勢のままゲームを開始してしまう事態におちいってしまうのだ!」

悠真「ただいまー!お菓子を買って・・・きたよ・・・」

陽介「悠真は三国志5をやりこんでいる。孫子曰く『不知彼不知己、毎戦必殆』。自分がやるべきことも僕がやろうとすることも予測できるのだ。だから呉子に書かれているよう広野に追われた賊となり死にものぐるいにならなければいけない。いや、呉子曰く『勇之於将、乃数分之一耳』とも書かれているな。必死になって勇猛さを発揮しても、それが勝利に大きく貢献するかは疑問だ」

悠真「チョコ食べようぜ!!!!」

陽介「ハッ!?」

チョコを片手にピースをしながらあごに手をやる悠真を見て我に返った。すぐ物事を考えすぎるのが自分の悪い癖だ。ちょっと熱くなりすぎたかもしれない。いくら何でも初プレイの僕を相手に熟達した手段を使用して潰しにきたりはしないだろう。そんな相手の無知を利用するようなプレイをして何が面白いというのだろうか。

悠真「はやく始めようぜ!配下の武将を作ってさあ!大喬とか小喬とか作っちゃってさあ!楽しい三国志を始めようよ!!!」

悠真は自分なりにゲームを楽しむ気らしい。きっと女の子の武将を沢山作ってハーレムのような軍勢を作るのだろう。

陽介「う、うん。それで何から始めるんだっけ」

悠真「確かお前の天命が13、そして呉子を四文引用したところで中断したんだよな」

そういうと悠真はスタタン、タンッ!とプログラムを打ち込んだ。呉子を四文唱えたためだろうか。四つの●が×に変わっている。


陽介「確か配下の武将を作るんだっけ?じゃあまた14面のサイコロを振るんだね」

悠真「そうだ。今からゲームを始めるまで準備期間として、お互いが10回ずつサイコロを振って配下を増やしたり強化したりする」

えっ?ゲームを始める前に10回もサイコロを振るの!?三国志の群雄と相見えるのに、あと10回も中国語を叫ばなければいけないのかよ!!三国志5って準備に時間がかかるゲームなのかなあ。

悠真「まるで『10回も振るの!?』と言いたげな顔をしているな。俺もここまで準備に時間をかけるのはやり過ぎだと思うけど、14面サイコロを振ると2人のうちどちらかの天命が1とか2だったりすることがわりと起こるからなあ。思ったよりもゲーム開始の準備が捗らなかったりしてしまうんだ」

陽介「サイコロの結果で戦略を考えていく趣旨のルールだし、采の目が不運でも仕方がないんじゃないのかな。仮に今のまま何もせず配下を増やさないでゲームを始めたとしてもクリアはできるんだろ?」

僕がそう言うと、悠真は『クワッ!』と目を開き『この愚か者が!愚か者がぁ~!』とほざいた。

悠真「俺は大喬小喬ちゃんとか作りたいの!そんで関銀屏ちゃんとか馬雲緑ちゃんも作って楽しくゲームをするんだよおお!」

どうやら悠真は自分の趣味を全開にしてゲームを楽しむ気らしい。あまり勝敗にはこだわっていないように見える(笑)。悠真が孫子を意識してゲーム開始前に勝敗を決しようと考えているなんて考えすぎだったのかなあ。初心者を本気になって潰したところでお互いが空しい時間を過ごすことになるだけだもんな。

悠真「そんじゃあ準備期間10回のうち1回目のサイコロを振るぜ」


陽介「僕の天命は8。悠真は11か。言霊が2つ(呉子から二文を引用)で武将を作れるかなあ?」

悠真「お互いにそう悪くない結果になったな。次にマスクデータを見よう。マスクデータとはゲームを始めないとわからない武将の詳細なデータのことだ。これを見ないと何のすれば最善なのか方針が定まらないからな」

そして悠真は三国志5を操作すると二人の武将データを表示させて静かに言った。



悠真「お互いにそう悪くない結果になったな」

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