三国志5プレイログ「二国志」~第二章:兵者国之大事、死生之地、存亡之道。不可不察也

悠真「俺たちが三国志5で対戦するにあたり採用するルール名を発表する。その名も『二国志』だ」

僕の顔を見ながら自信満々に笑みを浮かべる悠真。なんという堂々とした男っぷりだ。親指を立てて『グッ!』と指サインまで決めている。男児がここまで格好をつけているからには、きっと素晴らしいルールに違いない。

陽介「な、名前はわかった。シンプルで覚えやすい名前だなあ。それで『二国志』ってのはどんなルールなの?」

悠真は『フッ』と流し目を送り、人差し指をチッチッと振りながら幼児に教えを諭すような目で僕を見た。な、殴りたい・・・。

悠真「まあ慌てるなまずは俺のプレイキャラクターを作らせてくれよ」 そう言うと悠真はマウスをクリックしてキャラメイクを始めた。


悠真「よしよし。顔の画像はこんなもので良いかな。どうだ?俺に似ているだろう?」

顔グラフィックについては否定しておかないでおこう。まあ、悠真に似ていると思う。なんだか普通にゲームをプレイしているように見えるんだけど『二国志』はいつ始まるんだ?

陽介「う、うん。似てる。それでルールの内容ってのは?」

悠真「ルール?えっと、ルールはなあ。おい陽介、お前の持っている本を貸してくれよ」

まるで今思いついたような、おぼつかない手つきで僕のバッグを漁りはじめる。

悠真「おーおー、やっぱりあった。思った通りだぜ。じゃあしばらくこれを借りるよ」

そうして悠真がバッグから取り出した本は・・・。

陽介「僕の『孫子の兵法書』翻訳本?この本と三国志5にいったい何の関係があるの?」


悠真は『まだわからないのかい?』という表情をしたかと思うと『孫子の兵法書』のページをパラパラとめくりだした。早くルールの全容を説明してくれ。本当にぶん殴ってしまうかもしれない。

悠真「この本に書かれた文章をゲームに反映できるようにしよう。例えば孫子に書かれている『不知彼不知己、毎戦必殆』という言葉を魔法のように唱えることによってゲームを有利に進めることができるのだ」

『不知彼不知己、毎戦必殆』というのは『彼を知り己を知れば百戦して殆うからず』という有名な孫子の一節である。これを魔法の様に唱えてゲームに反映させる?なんだそれは!百回対戦して全勝できるようにするとでも言うのだろうか!?

陽介「えっと、つまり?」

悠真「兵法書の効果は常識の範囲内にとどめておこう『不知彼不知己、毎戦必殆』ならば敵の情報を得た後に自軍を一時的に大幅強化するなどだな」

陽介「ま、まだよく意味がわからないのだけど」

悠真「なんだよ、しょうがねえなあ。それなら俺が手本を示してやる。見てろよ見てろよ~」

そう言って悠真はカッ!と目を開くと天井を指さして高らかに唱えた。

悠真「孫子曰く!故知兵之将クゥチィピンチィチャン生民之司命シェンミンチィシィミ国家安危之主也クァチャアンウェイチィトゥイェ!』

鬼気迫る眼で叫ぶ悠真の体に稲妻が落ちた・・・気がした。これだけ堂々と家の中でにわか仕込みの中国語を絶叫できるなんて凄いやつだ。これからは悠真のことを見直してやらなければいけないだろう。色々な意味で。

陽介「な、なにが起こるの?」

迫力は凄かったのだけど悠真は目を見開き天を指さしながら微動だにしない。いったい何を考えているのだろう。ただ単に自分の行動の余韻に浸ってるんじゃないのかと思っていると。

悠真「そりゃ!そりゃ!そりゃ!そりゃ!」

もの凄い勢いでマウスをクリックし始めた!

悠真「ふう。こんなものだろう」


悠真「ふうふう。26回もクリックして能力値を厳選してしまったぜ。民の生死と国家の安危を託すに足る道理をわきまえた将。つまり『故知兵之将クゥチィピンチィチャン生民之司命シェンミンチィシィミン国家安危之主也クァチャアンウェイチィトゥイェ!』の効果を発動させて俺の分身である武将の能力を優秀なものにしたんだ。はあはあはあはあ。疲れたあ!」

僕は画面に表示された悠真(ゲームキャラ)を眺める。なるほど確かに先ほどの悠真よりもステータスの値が増えている。強いキャラクターになっているみたいだ 。

陽介「ま、まあ。なんとなく兵法書を活用していけばゲームに有利になるという理屈はわかった気がするよ。高い数字にして勝つ。意外とシンプルな話かもしれない」

悠真「うんうん。それじゃ次は陽介の番だな」

陽介「えっ!?僕もさっきのクゥチィピン・・・を叫ぶの!?なんでそんなことをしなくちゃいけないの!?」

悠真「違う違う、お前は違うんだって。まあとりあえずは俺と同じように自分の名前をつけた武将を作ってみろって」

『クゥチィピン・・・』を叫ばなくてほっとしたためだろうか。僕は何の疑問も持たず悠真に言われるがままゲームの操作をした」

悠真「武将の画像はどれが良いかな・・・よし、これにしろ!これで基本の形はできたな。うんうん」


陽介「悠真・・・僕の武将の顔画像って女の子じゃないの!?」

悠真「え?だからどうしたの?んん?そっくりだから良いじゃないか。髪を伸ばせば陽介の顔そのままだぜ。それに、お前に似ている男武将が見つからなかったし・・・」

僕は小さい頃から近所のおばちゃん達に『女の子みたいな顔ね』などと言われて育ってきた。きっと僕に似た男武将の画像が見つかるはずだ!と悠真に抗議をするも、ついぞ見つからなかった(泣)。

陽介「それじゃ次は僕も悠真みたいに孫子を読んでキャラを強くすれば良いのかな?ちょっと本を貸してくれよ」

僕が悠真の手から本を取ろうとすると、ひょいっと本を高く上げられてしまった(悠真は僕よりも10cm以上背が高い)。ジャンプして取ろうとしたらさらに高くあげられて空振りしてしまう。仕方がないので本を取る振りをしてボディに蹴りを入れてやった。

陽介「なんで本を取るのを邪魔するんだよ!」

悠真「ち、違う、ぐぐぐ、痛てえ、お前は違う兵法の本にするんだ。そういうルールになっているんだよお」

なぜ違う本にするのかと訪ねると悠真は『えーと、うーんと、その方が俺は楽しいし、うん、そうしよう』などと言いやがった。こ、こいつ、もしかして思いつきでルールを決めていないか!?

陽介「じゃあ違う本にする。たしかバッグの中に図書館でようやく借りられたリデル・ハートの間接戦略論があったな」

バッグの中に手を入れようとすると、悠真は『信じられない!』といった表情で僕を見て、腕を振りながら『やだやだやだ』のポーズをした。

悠真「なぜ三国志のゲームをするのにイギリスの本を持ちだすのだ!趣というものがわからんやつだな。諸子百家の訳本とかないのかよ」

そういうと悠真は僕のバッグを漁り一冊の本を取り出した。そもそもが三国志のゲームをプレイする際に孫子の兵法書を読んだりはしないだろう。読むのならば攻略本か攻略サイトだ。それに趣がないと言われてしまったが孫子とリデル・ハートの戦いは面白いと思うんだけど。

悠真「あった!こいつだ!」


陽介「呉子か」

僕は諸子百家の有名な本はあらかた買いそろえている。呉子も何度か読み通したのだけど読み返した回数は孫子の方が多い。それは別に呉子を軽んじているわけではなく、初めて孫子と呉子を知った時に『孫子は戦略。呉子は戦術の本である』と教わった先入観があるからだと自己分析している(実際はそんなにカッチリと内容を分類できるわけではない)。戦略と戦術の定義については記さないが僕は戦略書の方が好みなのだ。歴史書の史記は何度も何度も読んだので呉子の作者である呉起は大好きだけど。

陽介「じゃあ呉子を読んで自分の武将を強くするよ。ええと呉子曰く。古来より君主とはまず臣下を教育して民の団結をかちとってきた。団結を乱す不和は四つあり、まずそのうちの一つは」

悠真「ちょーーーっと待った!」 大声で呉子の朗読を遮った悠真は泣きそうな顔で『なんで君はすぐそういうことをするかなぁ~』と呻いて目の大きさをくねくねと変えながら僕を見た。

陽介「な、なんだよ。べつに中国語を絶叫しなくてもいいんだろう?参考にしたいページを朗読すれば良いじゃないか」

悠真「違う違う!中国語とか日本語とかそういう問題ではない!なぜ呉子からそんなに多くの文章を引用するのだ!俺は『故知兵之将クゥチィピンチィチャン生民之司命シェンミンチィシィミン国家安危之主也クァチャアンウェイチィトゥイェ』だけだったのにずるいだろ!」

どうやら僕が『呉子曰、昔之図国家者、必先教百姓、而親万民。有四不和・・・』と多くの文字を引用したことがまずかったらしい。だけど仕方がないじゃないか。悠真がルール(おそらく思いつきで決めている)の説明を曖昧なままにしているせいだろう。

陽介「じゃあ僕も悠真と同じくらいの文字数を引用すれば良いの?二人が朗読する文字数の制限とかを決めたり?」

僕の質問を聞き悠真はうーんと考え込んでしまった。こ、こいつ、間違いなく今ルールを考えている。

悠真「ひらめいた。『天命システム』というのを採用しよう!」

陽介「やっぱり思いつきで決めているんじゃないかーーー!!!」

ルールなんて最初っから決めていなかったことに開き直ったのか、悠真は言い訳もせずに僕の蹴りを優雅に躱すと、もの凄い早さで画像ファイルを作成し始めた。

悠真「これが天命システムだ!」


他人には狂気の沙汰に見える創造物でも作者にとっては頑張って真剣に一生懸命作ったものであったりする。決して馬鹿にしてはいけない。慈しむように、ただその努力を認めて褒め称えてあげれば良いのである。

陽介「その『天命システム』ってのがなんとなくわかったよ。サイコロの数字で引用できる文字数を決めるんだね」

悠真は『うむ』とつぶやくと。『文字数ではルールとして成り立たないかもなあ』と独り言を口にしながらデッサンの狂ったサイコロを修正し始めた。サイコロの画像はどうでもいいのだけど天命というネーミングに違和感を覚えてしまうのは僕だけかな。解釈するのが難しい言葉だと思っているのでサイコロを振って、それが天命ですと言われてもちょっとなあ。悠真はそんな僕の思考を感じとったのか。

悠真「天命システムについてだが俺は中華思想に関する知識に乏しいし、大陸の本の読書歴といえば論語を少しかじっただけなので言葉の理解もままならない。その論語にしたって何度読んでみても孔子の言う天命という言葉の意味をつかみかねてしまう有様だ。しかし、俺という人間が一生をかけて問い続ける天命という言葉を、これからお前とするゲームの中で、お前や三国志の英雄達と一緒に問い続けていきたいんだ。そんな願いをこめたネーミングなんだ」

悠真のやつ。即興にしては悪くないことを言う。

悠真「というわけで、このルールでは天命という言葉をルール発案者の俺が認識している『天が自分の人生に与えた使命』と捉えて使用する。そして天命とは2つのサイコロを振った数値の合計であり最大が12、最小は2なのだ・・・と考えていたけど変更する」

陽介「なぜ?」

悠真「さっきネットで調べたら嘘か真か秦始皇帝陵から14面のサイコロが出土したと書いてあったのだ。だから『天命は14面のサイコロを振った値であり最大は14、最小は1とする』ことにした。実際に天命の数字が何を意味するのか説明するから俺の用意した14面サイコロを振ってくれ」

孫子(孫武作とする)、呉子(呉起作)ときて始皇帝を持ち出すとは、大陸で発祥した事物を思いつきでひとまとめにしていないか?孫武も呉起も始皇帝も三国志の武将達から見れば数百年も前の人物なんだよ?まあ、ここで意見を述べるとややこしくなりそうなので悠真の考えていることをしゃべらせておこう。


悠真の用意した14面ダイスを振った結果が表示される。なんだかダイスというよりC言語のプログラムに見えたけど気にするのは野暮というものかもしれない。僕の天命は13ということになった。

悠真「引用できる兵法書の用語は天命の数値で変わる。天命の数値を3で割った商が重要となるんだ。陽介の天命は13なので3で割った商は『4』。つまり4文を引用できるということになる」

陽介「ほうほう。3というのは三国志にかけているのかな。そして商とは昔々あったとされる王朝の名前だ。なんだか天命を感じるな」

悠真「陽介は4文引用できるわけだが、この4文という定義は俺たちが使っている本に書かれている文章を句読点で区切って4つの文という意味だ。例えば『①武候問曰、②吾欲観敵之外、③以知其内、④察其進、⑤以知其止、⑥以定勝負。』という一文をまるまる使いたいと思ってもできない。『①武候問曰、②吾欲観敵之外、③以知其内、④察其進、』『②吾欲観敵之外、③以知其内、④察其進、⑤以知其止、』『、③以知其内、④察其進、⑤以知其止、⑥以定勝負。』のように連続した4つの文章を抜き出すことしかできない。また抜き出した結果、文章として意味不明になってしまったら無効となる

とりあえず今まで説明してもらったルールを元に言霊を唱えて自分の武将を強くしてみるか。しかし本当に中国語を絶叫しなければいけないのだろうか。

陽介「4文か・・・4文もあれば武将を強くする文章を作るなんて簡単だろうな。というか天命の最大値が14で商が4なのだから4文は最大値なのだ。めったにないチャンスを最初に得ることができたと喜ぼう」

そして僕は久しぶりに呉子を読み返して参考にする箇所を探したのだが・・・文章の所々で少し感動してしまった。呉子は本当に素晴らしい書だ。

陽介「読書は良いよなあ。ではいくぞ。呉子曰く、昔の国家の君主は臣下を教育して民の団結をかちとることにつとめました。」

悠真「だめだめ!だめったらだめ!もっと配下に命令する女指揮官のように!手をパーにして『バッ!』と弧を描いたあと、鋭い目で真っ正面を見据えながら言葉を発するの!」

これから自分がすることよりも悠真のよくわからないダメ出しを聞く方が恥ずかしく思えてきた。ええい!もうどうにでもなれ!

陽介「呉子曰く、昔より君主たるもの臣下を教え民の団結をかちとることにつとめた!呉子曰ウージィイエン昔之図国家者シーチィトゥクゥチャジャ必先教百姓ヴィシェンシャオバイシン而親万民アルシンワンミン!」


言い終えたあと恥ずかしくて頬が熱くなってきた。きっと悠真から見た自分は真っ赤になっているに違いない。4文だから40回能力を作り直して厳選していいよと悠真が言っていた気がするけど何回押したか覚えていない。知力は90、政治は80だと良いことあるとアドバイスがあったので馬鹿正直にぴったりと90、80でそろえてしまった。

悠真「フフフ・・・ハーッハッハッハ!やるではないか陽介!台詞と共に身振り手振りも格好良く決まっていたぞ!俺のキャラよりも強い能力だ。これは良い勝負ができそうだな!」

フフフと不適な笑みを浮かべながら僕のキャラを眺める悠真。僕はといえば、まだ頬が真っ赤になっていて熱い。まるで中国語を叫んだ瞬間から室温が上昇したようだ。

陽介「で、次は何をすれば良いの?この後どうすれば良いのか教えてくれ・・・」

悠真「まあ待て、その前に2点ルールを説明させてくれ。そうすれば全てルールは言い終えたことになる。まず1点、三国志5はターン制のゲームだが『兵法の言霊はいつでも好きな時に使うことができる』。自分のターンは言うまでもないが相手のターンでも使えるのだ。そして2点目、『引用したの兵法が書かれた文章は以後、参照することができなくなる』。例えば俺は孫子の作戦篇四に書かれている兵法(参考にしている孫子の目次で作戦篇四番目にかかれている)で強い君主を作ったわけだが、一度使った作戦篇四は以後使えないものとする。


ただし全ての兵法を唱えて使用可能なものが無くなったらリセットされて、また作戦篇四が使えるようになるというわけなのだ。 そういうと悠真は僕の方を向いて言った。

悠真「自らの分身である武将を作り終えたことだし、次は配下の将を作成するとしようか!!それでは二国志スタートだ!!」

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